元気堂物語
ウソのようなホントの話
「川口、今月はこれで何回目や。エエかげんにせな、わしもキレるで!」
確かに、今月に入ってから今日で4度目の遅刻。課長がキレるのも無理はない。
仕事に失敗したとか、会社がいやになったというわけではない。でも、遅刻の理由は誰にも話せなかった。たとえ冗談でごまかしても・・・
彼女と別れたのは、1カ月前。別れた、というよりも離れていったというべきか。チャンスの少ない職場環境で、ようやくできた彼女だった。
「川口君、気にせんとってね。べつにセックスだけが恋愛やないし…どっちかと言うと、私もセックスって好きなほうやないから。」 2回目のベッド・インで、彼女はそう言ってくれた。その言葉を信じたかったが、今の状況を見れば、自分の男としての自信を取り戻せる気がしない。
以前と変わらずに、オナニーでは勃起もするし射精もできる。でも、女を前にするとピクリともしないのだ。この2週間、試せる方法は色々と手を尽くしてみたが、回復にはいたらなかった。何か人生の歯車が狂ってしまったような絶望感、まさにドロ沼につかったような毎日。
とりあえず相談しよう・・・「ほら、朝はこんなに元気なんやで。」
片山はパンツをおろしてちょっとおどけたように腰を振りながら、妻の様子をうかがった。
というのも、彼の分身が2晩続けて役に立たなかったのだ。
「はいはい。分かったから、ええかげんそんなアホみたいなことせんといて。子どもが見たらかっこ悪いで。
あんた、しばらく仕事がキツかったから、疲れがたまってるんやわ。私はええから、のんびりしとき。」
『でも、なんでやろなあ。』
片山は通勤電車に揺られながらぼんやりと考えたが、考えてどうなるものでもなかった。
その後妻と色々(コスチュームや場所を変えたりして)試してみたが、彼の分身はフワーとしたままで、挿入できる堅さには戻らない。妻が少しイライラし始めたので、休日の朝子供たちに気づかれないよう、手早く済ませることでその場をしのいできた。
しかし、そんなセックスではお互いが満足できるはずもない。
市販の薬もいくつか試してみたが、回復にはいたらなかった。
あいかわらず朝は元気なのが、歯がゆいほどのジレンマに感じられる。そんなジレンマの中、新聞の文字が片山を釘付けにした。
『フワーと勃つがカチカチにならない』
いつもならゴミ箱に捨てる新聞を鞄にしまう。
「なあ、松岡課長ってメチャイケてると思わへん?やさしいし、かっこイイし。あんな男に誘われたら私、絶対ついて行くわ!」女子社員から羨望の眼を向けられる松岡は、仕事もバリバリこなし、上役からの受けも良い一見して完璧な二枚目サラリーマン。『けど、あの人の悩みは誰も知らない…』半年前、木下香織はそんな松岡から食事に誘われた。
男女の仲になったのは3カ月前のことだ。
初めはお互いセックスの相性も良く、週末は必ずホテルで過ごした。松岡に異変が起きたのは、クリスマスの少し前だったか。
「どうしたの?」 松岡が入ってくると身構えていた香織は、突然動くのをやめた松岡にたずねた。
「うん、ちょっと…」
松岡自身、合点がいかないようだった。見ると、先ほどまでは反り返るほどだった彼の分身が、まるで気を失ったかのようにしおれている。
以来、松岡からセックスに誘うことはなくなった。それどころか、このことは絶対に誰にも話さないで欲しい、と泣きそうな声で頼まれた。
『これが自尊心ってやつなの?』香織はぼんやり考えてみたが、自分には何もしてあげられそうにない。
『どこかに相談するしかないわね…』
『ドックンドックン…』
バスタブにつかりながら、ふとタカシはつぶやいていた。射精のときの痺れるような快感を思い出そうとしたのか。
20代前半までは何の異常もなかった。むしろ熱いくらいの快感に満たされ、夜ごと別な女の子を口説くのを自慢げに話していたものだ。
アルバイトで入った会社に、正社員として採用されてからはさすがにおとなしくなった。
今の彼女とは、もう2年ほどになる。つきあい始めた当初から射精の感覚はすでに弱くなりつつあったが、遅漏なんだとごまかしていた。
昨年の秋、ついに射精感がないままトローっと流れ出た精子に気付かず、彼女の生理が始まるまで二人は悩ましい夜を過ごした。ピストン運動は可能だったが、力強さに欠けるセックスにタカシの青年らしい覇気は消えていった。「元気出してよ、タカシ!」
そんなタカシを気づかいながら、彼女はできるだけ明るく振る舞っていたが、心の中ではやりきれない気持ちに押しつぶされそうだった。
『このままやったら、二人ともねじれてしまう…』
そう考えた翌日から、できることは片端から試した。
ようやく元木先生に辿りついたのは、8件目、まさに七転び八起きのねばり強さだった。
帰るなり汚れ物を旅行用のバッグから洗濯機に放り込んで、木下は軽くため息をついた。
単身赴任で東京支店に異動して半年。金曜の夜、新幹線で帰阪して週末を自宅で過ごし、月曜の朝一番の「のぞみ」で東京に戻る生活サイクルにも少し慣れてきた。
子供は上が女の子で大学生と、高校2年生の弟の二人。もうそれほど手が掛からないだろうと単身赴任も快く引き受けたのだった。しかし、40代後半になってのひとり暮らしには、思いもかけない落とし穴が待っていた。
十年も連れ添えばセックスレスになりがちだが、結婚前、先輩社員に『昼の仕事より夜の仕事を大事にしとったら夫婦は安泰やで』と教えられた木下はその言葉通り実行してきた。事実、ご近所もうらやむ明るい夫婦だった。
「おとうさん、東京で浮気でもしてんの?」
布団の中で妻が冗談まじりでそうたずねたのは、前戯を終えひとつになって腰を動かし始めたとたん、小さく縮んでしまったからだ。そんな症状が2?3週間続き、夫婦はため息の毎日を過ごす。
東京で同僚と遊んでいたのは事実だが、それが原因とも思えなかった。
大学時代の友人に相談して元木先生を紹介してもらった。






